先日、知のライブハウスというパネル講演を聴いてきました。
おもな話題はミズタマのチチに、<第一部><第二部>として公開しています。
このなかで、デジハリの杉山学長の話されていた、地上波デジタル放送が始まったあとのビジョンを聞いて、テレビ局の価値が大きく問われたり、ネットがその分野に食い込んでくる転換点になるなと、とても刺激を受けました。
●杉山知之氏の2006年のキーワード
「ネットから始まるデジタルコンバージェンス」
'11年に地上波放送は打ち切られる。そしてデジタル放送になる。
ところでデジタル波は遮蔽物に非常に弱い。そこで総務省が「IPTVにしましょう」といった。
IPTVとはコンテンツが電波ではなくケーブルを通ってくるもの。
'07~'08年に発売されるテレビ受像機は、この対応を義務付けられる可能性が高い。
するとどうなるか。
「なんでもネットで見られるじゃないか。」となる。
視聴者からすれば、テレビ局から送られてくるものとか、ネットクリエイターから送られてくるとか、
全然関係ない。
ネット側でテレビみたいなコンテンツ配信ができるようになる。
いまのテレビとインターネットは、電波とケーブルの二つの伝送路に分かれています。
しかし地上波デジタル放送が始まると、遮蔽物に向こうにも放送内容を行渡らせるために、光ファイバなどの通信ケーブルに入ってくるようになります。
テレビ番組が、アンテナ線ではなく、ネットコンテンツも運んでいる通信ケーブルから流れてくるのです。
もしPCのような大げさなものがなくても、チャンネルを切り替えるだけで、テレビ番組もネット上のコンテンツも見られるようになったら、受像機の向こう側にいる視聴者は、そのコンテンツがどこから来たかなんて、あまり意識せずに楽しむことでしょう。
以前、テレビとネットの近未来カンファレンスを見たとき、日本コカコーラのマーケティング部の方が、広告出稿するクライアントの立場として、「テレビのGRP(*)に替わる有効な指標がない限り、テレビと同等には扱えない。」と話していました。
杉山学長が描いたとおりになるとしたら、インフラ面ではテレビとネットは同等にリーチするようになります。
クライアントサイドから出された宿題がかなり片付くように感じられます。
そうなると、ネット発の事業会社でも、同じ規模のことをやろうと思えばやれるわけですから、昨今のネット企業によるテレビ局を買収って、意味が薄くなってくるなあと連想できます。
もうひとつ。
今のテレビ放送は、衛星放送を受信しない状態なら、東京都内で10数チャンネル。
リアルタイムに流れているコンテンツは、リモコンのボタンの数に収まる程度です。
また、免許制度のおかげでチャンネル数も滅多に増えません。
でも放送がケーブルから流れるようになると、そのケーブルを流れるコンテンツは莫大な量になります。
つねに何十万件もの番組が画面の向こう側にあると想像してください。
テレビ欄のような、制作局ごとに番組グループが分けられているという、現在のコンテンツ整理法が通用しなくなります。
まあ、テレビ受像機の製造メーカーが、テレビ局の流すコンテンツしか見られないように作ったら話は別ですがね。
ものすごい数のコンテンツの中から見たい番組を探そうと思ったら、また違うアプローチをさがすことになる。
Tivoの例から想像すると、お気に入りのジャンルやカテゴリー、キーワードをもとにざっくりとピックアップし、視聴コンテンツを指定して見る行動があるでしょう。
しかも、電源スイッチを入れるたび視聴コンテンツを指定するなんて面倒ですから、あるとき見る番組を登録したら、しばらくの期間ずっとその設定で見続けることもあるし、
ある製作者に対して、面白い番組をどんどん見せてくれる期待感をいだいたら、一日中その製作者の発信チャンネルに合わせっぱなしにする、というのも想像に難くありません。
こういう状況になったとき、既存のテレビ局の価値がどうなるかは、とても興味深いことです。
もうひとつ、そうした視聴スタイルにマッチするように、ネットの関係者がどのようなコンテンツ・ハブを作るのか。
そこも非常に興味深い。
Tivoのようなハードウエアがなくても、ウェブサービスでTivo的な視聴スタイルを可能にするハブが、そのうち登場するでしょう。
参考にした記事:
CNET Japan 「展望2006:規制緩和と新サービスで見える放送と通信の融合のあり方」
*: GRPとは、視聴者のべ合計のこと。リーチ(到達率)とフリークエンシー(接触回数)の掛け算で算出する。
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