今回のカンファレンスで話されたテーマは、非常に幅広かったです。
僕はそのカンファレンスに「ポッドキャスティングは、それをすることで食べていけるモノになり得るか?」という視点で参加し、各パネラーの方たちの話を聞いてきました。
印象に残った内容を、記憶を頼りに紹介します。
・CMスキップによってCM挿入ビジネスモデルに影響はあるか?
→結論「問題にならない。」
・ネット広告がTVCM程の予算を集めるのに必要なこととは?
→結論「GRPに替わる有効な指標がない限り、テレビと同等には扱えない。」
・ポッドキャストとして入れるものは、どうなるべきか?
→結論「深く絞り込むことと、広くキャッチできること、両方が必要だ。」
・ポッドキャストはビジネスになるか?
→結論1「視聴端末として今有望なのは携帯電話だ。」
→結論2「映像コンテンツを直接売って収入を得る道は、
GyaOによって絶たれてしまった。」
非常にザックリと、こんな感じです。
僕が事前や事後に取り入れた情報と付き合わせながら解釈した部分があるので、カンファレンスの内容と相違する部分があると思います。
続きのページでは、結論に至った理由などの詳細と、自分の感想などを交えて述べます。
・CMスキップ現象は、CM挿入というビジネスモデルに影響を与えるか?
稼ぎ口として広告掲載を思い浮かべる人も多いと思います。
GyaOが広告掲載によって視聴料無料にするモデルを確立しつつありますね。
実際ウェブサイトやブログを見渡しても、そういうビジネスモデルは多いです。
この、いわば成功例は、大丈夫なのか?考えるとき、野村総研が以前出した「CMスキップによる広告価値の毀損」とのレポートが引っ掛かるのです。
→結論「問題にならない。」
(パネラーは、某大手広告代理店HのX氏。)
話題になったレポートの算出根拠の間違いはさておき、HDRの視聴行動を実際に検証してみると、CMスキップはあることはある。
しかし、ユーザー世帯特性や番組ジャンル、再生時間帯・シチュエーションによるばらつきがあり、一様には論じられない。それより繰り返し再生される事で、CMも繰り返し露出しているという実験結果を得たそうです。
ユーザーは、CMを目の敵にして抹消しまくってるわけでは無いんですね。
理由1:繰り返し再生した行動を調べると1回目の再生ではCM中でもそのまま再生。特に最初の30〜60秒間のCMは、本編の流れでそのまま見てしまうことが多い。
理由2:リアルタイム視聴では、CM時間中にザッピング(チャンネルを他局に変えること)が発生することがあるが、録画視聴だとそういうことはあまりなく、むしろビデオ再生時間が多いユーザーほどCM再生回数も増え、CMに接触する機会が増していることになる。
そうすると累積再生率が効いてくるのでそちらが重要になってくる。
理由3:そもそもテレビで映像を見る視聴スタイルは、とてもリラックスした、ぐうたらな態度。いちいちCMのたびにリモコン操作など、面倒なことはあまりしない。
理由4:おもしろいCM・興味あるCMは、見たい映像として視聴される。
この理由4を起点にすると、シーンをクリップするようにまとめた場合は、より積極的なリピート視聴を望めるのではないでしょうか。
実際に、シーンをクリップするように抽出することは、ソニーの一部のHDRで既に実現しています。
メタキャストや(株)プロジェクトは、CMのシーン・登場人物・アイテムなどのキーワード検索を効かせる事でCMデータへアクセスできるようにしています。
視聴者が選別をする厳しさはあるものの、アグリゲーションの整い方によってCMの持つ価値を高める可能性はありますね。
・TVCMほどの予算を取れる(投資価値のある)メディアになるには、何が課題か?
ポッドキャストに限らず、広告によって利益を得たいと考えた場合、その媒体はどれほどの価格で売れるのかがポイントです。
広告予算はマスメディア向けが大半を占めますが、近年ではネット広告もシェアを広げつつあり、雑誌広告の取扱高を追い抜きました。
この勢いは、いずれテレビの牙城にも迫ると予測する向きもありますが、果たしてどうでしょうか。
→結論「GRPに替わる有効な指標がない限り、テレビと同等には扱えない。」
(パネラーは、日本コカコーラでマーケティング部ニュープラットフォーム総括部長をしている江端氏)
GRPとは、視聴者のべ合計のこと。リーチ(到達率)とフリークエンシー(接触回数)の掛け算で算出する。
理由:GRPには量的な価値がある。一気に大量にブランドを認知させ、そこに向けてまとまった数を投入できる。
地域や規模、見せるべき対象もコントロールできる。
このことは、材料購入・ライン構築・生産・販売のあらゆる工程を効率よく動かせる源になる。
ネットの場合は、大量の認知率が垂直に立ち上がるようなスピード感がない。「今日発売したら3ヶ月ぐらいしてジワジワ売れてきた」なんてのは、生産ラインも組めないし、待てない。
クライアント企業としては、このような理由でGRP至上主義である。
「一気に大量にブランドを認知」させる仕組みは、テレビの視聴スタイルに鍵があります。
テレビは、ダラダラとラクして見られる装置であり環境。
どんな情報でも、受信側で選別されずに絶えず流れ続けるという状況は、今、差し迫ったニーズがないものでも、問題意識を喚起し、語りかけることで消費意欲を刺激することができますから。
乱暴に言ってしまうと、GRPとて確率論における説得材料であって机上の数字だ、とか、CMを打てども消えていく商品群を見れば、実効性には疑わしい部分があるのでは?という声も聞こえてきそうですが、ネットにおいては同様の要求があったとき、説得材料になるネタすらないのが今の状況。
その仕組みや事例を作るのが、これからの課題でしょう。
Advercasting前夜にあって、夜明けはまだ遠い印象ですね。
・ポッドキャストとして入れるものは、どうなるべきか?
一個人でも放送局が持てる、といわれるポッドキャスティング。
ニッチな関心事を取り上げ発表できるので、マスメディアが取り上げない、突っ込んだ情報、レアな情報が発信されると期待されます。
しかし、実際やってみると素人が単発で面白いものを作る事は大変難しい。
また、ポッドキャスティングを視聴するユーザーは、面白いものを捜し求め、出会いに期待していますが、そのきっかけになる仕組みは、まだ十分とはいえません。
僕の周囲のポッドキャスターからは、内容的に連携するとか、「面白いポッドキャスティングを見つけたよ!」と紹介するなど、何らかの編集・集合が必要だろう。との意見が聞かれます。
これについて、どんな知見が示されるか、ポッドキャスト経験者としては気になるところです。
→結論「深く絞り込むことと、広くキャッチできること、両方が必要だ。」
(パネラーは、ジャーナリストの林 信行氏。)
iPodに映像のキャスティングが可能になった。これで映像を見るロケーションが自由になるといえる。
ところで、インターネットは検索によって知りたい情報と結びつくアグリゲート型の提供が得意で、ポッドキャスティングもそういう形で取ることが多い。
あるいはdel.icio.usで話題になっている度合いを見てチェックしてくるのだが、テレビのように、向こうから予知しないモノがやってくる出会いもあると良いのではないか。
また、現在のポッドキャスティングは一つのパッケージ内で完結しているが、その中に含まれる話題は、例えばKNN神田さんのポッドキャストならば、ワンセグや、著作権の議論や、ビデオリポート、サッカーなど多岐にわたるだろう。
このなかでサッカーに興味のある人が「おい、みんな。神田さんのところで、サッカーを取り上げてるぞ。他の所でも面白い分析がある。合わせて見るといいぞ。」と呼びかけるようなポッドキャストがあったなら、興味のある話題を広く、厚く視聴することができる。
これは、ポットキャスト間でメタデータが行きかうことになるから、「メタポッドキャスト」と言えよう。
そのつながりは重要で、かつ便利です。
自分の把握しているポッドキャストをすべて再生し終えて、手持ち無沙汰になったとき、「なにか面白いものはないかあ」と探すことになります。
そういうときは自分の境界線の向こう側からやってくるものを期待していて、林氏の述べるところは興味の指向性を保ちつつ、未知のコンテンツにたどり着ける形になります。
これには、誰がどの時点で編集するか。どういう形がよいか。という議論がありますが、もし「発信者がポッドキャストを一本化して出す。レコメンドしたものは自動的に再生されるから付けっぱなしでの視聴が可能」とするなら、Podcast Tool v1.1ベータ1がその鍵になりそう。
このツールには、取り込んで来たデータの、再生時間やフォーマットを揃えてチャプターを付ける機能をもっています。
そこまでせずとも、いくつものタイトルの見るべきタイムスタンプと再生秒数間隔を指定して、それを複数のチャプターとしてまとめたRSSがあっても良いのかもしれません。
望ましい形はどういうものか。現在の技術で実現可能な形はどんなものか。それを考えるのはとても面白いですね。
・ポッドキャストはビジネスになるか?
これで食べていけるんですか? どうすれば儲かるんですか?とは、切実な話。
現実をどう分析し判断するか。広告もあればコンテンツ直販もあるが、どの方法が行けるのだろう?
→結論1「視聴端末として今有望なのは携帯電話だ。」
(パネラーは、日本テレビメディア戦略局の佐野氏)
ターゲットになるのは日常の移動時間の合間などにできる、2分くらいの隙間時間。その間に見られるものを提供する。これに適したプラットフォームを探すと携帯電話が有望という結論に至る。
理由1:「マス媒体になり得るか」という目線で普及台数を見てみる。
iPodは、これから出てくる機種はすべてビデオ対応と仮定して、この一年間で想定500万台。対して携帯電話は既に8,000万台持たれている。
理由2:携帯電話はインターネット端末だ。
その場で見たいものに即アクセスできる。映像を見た後サイトに導いて何かするという行動がしやすい。iPodなどは基本的に一端入れてしまったらそこで完結してしまう。
理由3:隙間時間における小型端末での視聴は、リビングのテレビとは違う。
手のひらに収まるものを持っていると、意味もなく指先でいじりたくなるからだ。
そのときジッと画面を凝視するよりは、指先を使って何かをするモノのほうがマッチする。携帯電話ならば、カーソル操作や文字入力もできる。
これに加えて、(株)エル・カミノ・リアルからは、Java携帯で動くiTunesのデモンストレーション(見本はこちら)があった。どよめきと感嘆が起きる。
普及台数の考え方は説得力がありますが、僕は、現在の画面では小さすぎて動画にしたところでわかるんだろうか?と疑問に感じます。
また、携帯電話のメモリ、バッテリーの貧弱さを考えると、それほど重たいデータ/長時間のデータは動かせないんだろうなあと予想できます。音声なら別でしょうが。
そしてなお、指先を使って何かするという話を聞くと、どうもゲームみたいなことをやるイメージなのでしょうか?
うまく掴めないところは残るけれど、ポッドキャストをやるのなら、特定の端末に偏向せずに、再生するモノをちょっと広い目線で観察した方が良い。との示唆を受け取れました。
→結論2「映像コンテンツを直接売って収入を得る道は、GyaOによって絶たれてしまった。」
(パネラーは、メディアエンジン有限会社内田氏)
GyaOがスポンサーから広告を得ることで、視聴者にはコンテンツを無料で提供し、成功しつつある。
これは制作者が自分たちでコンテンツを手作りし、直販しようとしたとき、大変な足枷になる。
理由:よそでタダで見られる魅力的なものがあるのに、わざわざ有料で見る人なんかいない。
そこで、ポッドキャストを集合させてメディアとしてのバリューを生み、広告モデルで利益を出そうとしている。という内容だった気がします。
本当のプレゼン内容は、世界初というポッドキャスト専用テレビの概要説明だったはずが、余談が多くて、しかもそっちの印象が強かったんです。
コンテンツのダウンロードフィーで代金を稼ぐやり方には、とどめを刺されたと言っていますが、どうなんだろうなあ?
それはコンテンツの独自性というものを考慮に入れてないような気がするんですけどね。
ポッドキャスティングのような基本的にダウンロードされるものだと、複製もとられやすく、どっちにしてもダウンロードフィーで稼ぐのは難しいのかな。
コンテンツ制作者は映像ポッドキャスティングの世界でも、広告代理機能を持った大手配給元に、相変わらず支配される構図なのでしょうか?
総じて振り返る。
今回は「稼ぎ口としてのTVCMは相変わらず重要で、将来のためにそのビジネスモデルは安泰でいてほしい。そしてその予算からの取り分を大きくしたい。」そんな気配を感じました。
また、テレビの業界からは、今あるものを壊すな。今のままで良いじゃないか。というメッセージを(言ってはいないが)感じました。
もしかしたら、どこかで攻撃されたのかな?
僕の知る限り、ポッドキャストなどのテクノロジーやコミュニケーションに敏感な人々は、「好きなときに、好きな場所で、好きなものを楽しみたい。」という願望に正直なだけです。
ブログやSNSでいろいろなひとの様子を見ると、多くの人はこれまでのメディアにおさめられているコンテンツもテレビ番組も(すべてではないが)とても愛していて、それらをこれまでよりも積極的に身の回りに、いつでも手の届くところに置こうとしています。
そして、ロケーションもタイミングも自由で、感心にマッチするニッチ情報や、個性・刺激性・速報性・詳報性の優れたポッドキャストを、厳しく選別しながらも歓迎しています。
僕たちは、いままで繰り返された提供のされ方によって、楽しんだこともあったけれど、「それは、僕の関心のあることじゃないな」「そんな下らん事より、知るべきことはほかにある」と気づき、求めればどこかに「そのほかの興味深い情報」がある事を知りました。
そのせいで、いままでの方法に飽き、それだけではモノ足りたりなくなってしまいました。
そして、それ以外の方法で楽しいものを取ってくる方法を見つけようとしています。
あと、これはごく個人的な考えだけれど、僕はビデオポッドキャスティングをやっていますが、別に小銭を稼ぎたい訳じゃありません。
僕が得たいものは、誰かが撮って来た、興味深い何か。
僕が行けなかった場所、見たことのないシーン。
つまり、コンテンツを見る事そのものが望みです。
もし、僕が発信する事で、「なんだ、こんなネタでいいんだ」とか「そんなに簡単なら、ちょっと流してみっか」とか、動機は何でも良いんですが、誰かがまた発信を初めて、結果的に何か面白いもの。何か興味深いもの。何か見た事のない風景が、巡り巡って届いてくる環境になったら大満足です。
ただし、みんなが僕と同じ動機な訳はないし、製作を続けるモチベーションとしてお金は重宝するから、広告媒体として成立する仕組みができればいいなと思います。
おわり。
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